大阪地方裁判所 平成5年(行ウ)34号 判決
原告
堀内雅代
(ほか五名)
右六名訴訟代理人弁護士
辻公雄
同
秋田仁志
同
岡本栄市
同
佐田元眞己
同
戸越照吉
同
工藤展久
被告
(高槻市議会議員) 高須賀嘉章(Y1)
同
藤川和夫(Y2)
同
尾崎勉(Y3)
同
須磨章(Y4)
同
久保隆夫(Y5)
右五名訴訟代理人弁護士
河上泰廣
同
芝野義明
同
若林学
同
永嶋真一
被告
川上忠男(Y6)
右訴訟代理人弁護士
上坂明
右訴訟復代理人弁護士
崎岡良一
被告
久保杏慈(Y7)
右訴訟代理人弁護士
竹下義樹
被告
(高槻市長) 江村利雄(Y8)
被告江村参加人
高槻市長 江村利雄
右両名訴訟代理人弁護士
俵正市
同
重宗次郎
同
苅野年彦
同
坂口行洋
同
寺内則雄
同
小川洋一
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 会派視察による出張は費用弁償の対象となるか(争点1)
1 前記第二の一2でみたように、地自法二〇三条三項は、普通地方公共団体の議会の議員は、職務を行うために要する費用の弁償を受けることができる旨規定し、これを受けて本件条例四条一項は、「議員等が公務のため旅行をしたときは、その旅行については費用弁償として旅費を支給する」と定めている。右規定によれば、「公務のために」旅行したことが、費用弁償としての旅費の支給を受けられる要件であって、このこと以上に議会の議決等を必要としているわけではない。
2 そして、前記第二の一3で認定した事実に〔証拠略〕を併せると、高槻市議会議員の出張としては、前記第二の一3で認定した各種のものがあるところ、これらの出張はまとめて行政出張と総称されるが、それぞれを区別する根拠規定があるわけではなく、長年にわたる慣行によって区分され、予算付けがなされてきたものであること、この中で、本件で問題とされている会派視察は、会派(一人でも可)で行う行政全般に関する調査、研究のための視察であって、従来の所属委員会の所管事務に限定される常任委員会行政視察では対応しきれない部分を補完するために、遅くとも昭和四〇年ころから実施されてきたものであること、その概要は、議員一人当たり年間二〇万円の予算の範囲内で、原則として議会の閉会中に、議長の承認又は許可を得て行うものであり、事務局職員の随行はないものとされていたこと、以上の事実が認められる。
3 そこで、右の会派視察による出張が「公務のため」の旅行といえるかどうかについて検討する。
地方議員は普通地方公共団体の議会を構成しているところ、議会は、当該普通公共団体の議決機関として、議案その他の審査権及び団体の事務調査権に基づき、その権能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有しているから、合理的な必要性が認められるときは、その裁量により構成員たる議員をして視察等のために派遣することが認められるというべきである。そして、一般に、近年の都市規模の拡大等による行政機能の複雑化、多様化に伴い、個々の議員が広く他の行政実情にも正確な知識を持つことが、その議会活動能力を高め、ひいては住民の利益にも繋がると考えられること、特に、高槻市では、前記第二の一3で認定したように、その本会議における質疑の発言は、自己の所属する常任委員会に付託される議案については質疑を行わず、所属外の委員会の付託議案に質疑できることになっており、また議案審議の終結を経た後の本会議では、一般質問として、市の一般事務について質問できることになっているのであって、このような先例からすると、議員としてその職務をまっとうするとすれば、常任委員会等の委員会所管事務のみならず、それ以外の事務についても広範な知識が要求されること等にかんがみると、議会に認められるべき議員の視察等の派遣は、その事項についてもまた地域についても広範なものとならざるを得ない。
したがって、前記2で認定した会派視察の内容に照らすと、その公務性は十分肯認することができるのであって、各常任委員会に付託された事項に関する視察のみが公務といえるとの原告らの主張は、採用することができない。なお、原告らは、本件議決(前記第二の一2参照)は、議員がなし得る行政視察を所属常任委員会の所管事務の調査に限定する趣旨のものであると主張するけれども、右の議決は、地自法一〇九条六項に定められている議会閉会中の常任委員会の審査事項についての付議であるから(甲一二)、これをもって議員の視察を常任委員会の所管事項に限るとする根拠とはならない。
4 次に、原告らは、会派視察につき議会に裁量権があるとしても、議長にはそのような権限はないと主張する。
しかしながら、前記3で説示した会派視察の要請からすると、議会の閉会中において、議員派遣の都度、議会が個別の議決をもってこれに対応することは、時宜に適した派遣を不可能にするおそれがあるから、派遣の要否の判断権(裁量権)を議長に行使させることも合理性を有するものと解されるのであって、議長は、議会の事務の統理権(地自法一〇四条)に基づき、右の裁量権を行使することができるというべきである。
なお、従前の行政視察出張申請書(甲一三)には、「昭和 年 月 日議決による所属委員会の所管事務調査のため、次のとおり行政視察出張をしたいので申請します」との文言が記載されているが、右の書式は典型的な委員会視察出張の場合についての書式ということができるから、右書式が過去に採用されていたことをもって、議決のある場合にのみ議会が議員を派遣することができる(派遣の要否の判断を議長に委ねることが許されない)ものということはできない。
5 以上のとおり、議会ないしは議長には、議員を派遣するにつき広範な裁量権があり、議員は右の範囲で視察のための出張を行い、費用弁償(旅費の支給)を受けられるのであって、会派視察による出張といえどもその例外ではないというべきである。そして、議会の審査権及び調査権の性質にかんがみると、右会派視察の「公務性」の判断については、右の議会(議長)裁量権が尊重されるべきであるから、右裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したと認められる場合に限って、当該視察は公務性を欠き違法と評価されることになると解すべきである。
なお、高槻市の議員は市政調査費を支給されているが(証人二木)、そのことをもって以上の判断が左右されるものではない。
二 被告議員らの出張が費用弁償の対象となるか(争点2)
1 被告高須賀について
(一) 沖縄県名護市及び平良市への出張について
(1) 〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。
ア 被告高須賀は、平成四年二月当時議長の地位にあった者であるが、沖縄返還後の地域活性化を課題として沖縄県名護市及び平良市を視察することとし、事前に高槻市の議会事務局を通じて相手方議会事務局に連絡した。その際、同被告は、名護市にはウォーターフロント計画があることを知り、併せてこれに関連する施設も視察することを考えた。
イ 出張申請書(甲一の1)が提出された同年二月六日の時点では、出張日程は同年三月二二日(日)から二四日(火)までとされていたが、出発予定の直前になって不都合が生じたため、同被告は、議会事務局とも相談の上、右日程を同年三月二八日(土)から三〇日(月)までと変更した。
ウ 同被告は、同年三月二八日(土)午前の便で大阪空港を発ち、昼前後に那覇空港に到着した。同日午後、同被告は、名護市役所に赴き、同市役所の建物を外から見学した。右建物を見学の対象としたのは、冷房の設備がないにもかかわらず、機能しているということからであった。同被告は、二〇分ほど右建物を見学した後、タクシーで、名護湾や名護市内を走り、博物館、名護城跡、ガジュマロの木等を見学した。そして、同日は那覇市内に宿泊した。
翌二九日(日)、同被告は、早い便で宮古島に着いたが、雨であったため、市民会館を訪れた程度で、殆ど時間をホテルで過ごした。
翌三〇日(月)、同被告は、平良市の議会事務局職員の案内で、市営球場、池間大橋、池間島の地下ダムを見た後、同職員から地域活性化の一環であると説明されたトライアスロンのコースを見学した。そして、同被告は、同日正午頃の飛行機で宮古空港を出発し、那覇経由で帰阪した。
(2) 右に認定した事実経緯に照らすと、被告高須賀の右出張は、高槻市の地域活性化に資するための目的でなされたものであり、その内容も右の目的に沿ったものということができるのであって、その日程が土、日曜日を含んでいることを考慮しても、なお、議長において右出張の承認をしたことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱し、又は裁量権を濫用したものとは認められない。
(二) 東京都(江東区、千代田区)への出張について
(1) 〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。
ア 被告高須賀は、高槻市において清掃工場の炉の更新とそれに伴う余熱の利用が問題とされていたことから、既に余熱の利用において先進している東京都江東区の清掃工場の視察を主たる目的とし、併せて、東京都千代田区については同区が行っている姉妹都市交流や学生間同士の交流についても調査することを目的として、出張申請書(甲二の1)記載のとおりの日程(平成四年四月一、二日)で、東京都に出張を行った。なお、同被告は、東京都に対し、事前に連絡をとることはしなかった。
イ 同被告は、平成四年四月一日昼過ぎに東京に到着し、江東区の「夢の島」を訪れ、清掃工場の外観を見学した後、付近の体育館や熱帯植物園等の施設を見て回った。また、同被告は、夢の島を訪れ、江東区が清掃工場の余熱を利用して、老人憩いの家や老人福祉センターを設けていたことを知った。
ウ 同被告は、翌二日、千代田区役所に行き、隣接する図書館を見学した後、社会教育会館を見学し、その後帰阪した。なお、同被告は、社会教育会館は海外交流事業に関する施設であると考えていたが、同会館は生涯学習を扱っており、同被告が考えていたような施設ではないことが判明した。
(2) 右に認定した被告高須賀の出張の動機、目的、視察内容等に照らすと、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
確かに、同被告は、右視察に当たって相手方部局の説明も受けず、また、事前の準備が不十分なため、予期した成果が得られなかったことがあったかと思われるが、相手方部局の説明を伴わない視察が行政視察として無意味であるとまではいえないから、右のような事実があるからといって、右の判断を左右することはできない。
2 被告藤川について
(一) 岡山市及び建部町への出張について
(1) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
ア 被告藤川は、岡山県下の労働組合の連合が主催するシンポジウムに参加すること等を目的として、平成四年五月二二、二三日の日程で岡山市と岡山県建部町に出張する予定を立てたが、同月一九日から二一日まで予定されていた臨時市議会が延長される可能性もあったので、出張申請書の提出を控えていた。そして、その手続につき、議会事務局に相談したところ、出張の二、三日前の申請では手続ができないので、出張後に申請手続をする扱い(事後申請)でもよいとのことであったので、それに従うことにした。
イ 同被告は、同年五月二二日午後三時頃の新幹線で新大阪駅を発ち、午後四時過ぎに岡山市に到着した。同日午後五時頃から岡山市議会議員の羽場頼三郎の事務所を訪問して、関係者と意見交換した後、同市内の伯父の家に宿泊した。
ウ 翌五月二三日には、建部町で江田三郎墓前祭が予定されており、岡山駅前から貸切バスが用意されていた。同被告は、右墓前祭に参加すべく、午前一〇時頃、岡山駅に行き、貸切バスに乗って、建部町に赴いたが、豪雨のため墓前祭への参加を諦め、付近の町役場や公民館、福祉機器販売店を見学した。その後、同被告は、羽場議員運転の自動車で岡山市内に戻り、午後三時三〇分頃から前記シンポジウムに参加した。右のシンポジウムは、「江田三郎没一五周年記念シンポジウム―江田三郎の政治的足跡と政界再編成」とのテーマで、午後六時頃まで行われた。
エ 被告藤川は、同年五月二九日に右の出張に付いての申請書(甲四の1)及び報告書(甲四の4)を議長宛に提出したが、いずれの書面においても、出張年月日(期間)を「平成四年五月二〇日~同月二一日」と誤記した(これについては、後日訂正願いが出されている。)。
(2) 以上の事実経緯に照らすと、被告藤川は労働組合主催のシンポジウムに参加することを主たる目的として出張したものではあるが、右シンポジウムは政界再編成を主たるテーマとするものであって、議員としての政治的活動に関わるものであることからすると、右シンポジウムが労働組合あるいは同被告が所属する政党が深く関与するものであっても、なお議員活動を行う上に有益なものということができる。したがって、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
また、建部町への出張も、当初は江田三郎の墓前祭への参加のためということであったが、結局のところ、被告藤川はこれに参加せず、付近にあった町役場や公民館、福祉機器販売店を見学したというのであるから、議長によるその承認をもって、未だその裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものであるということはできない。
なお、被告藤川の右出張は、事後申請されたものであって、事前の許可、承認を得ていないものであることは前記認定のとおりであるが、事後申請が直ちに違法ということはできないから、右の事実をもって右の判断を左右することはできない。
また、前記(1)で認定したところからすると、原告らが指摘するとおり、被告藤川は、伯父の家に宿泊したことにより宿泊料を出捐せず、また、岡山市と建部町との間の往復の交通費(鉄道賃)を出捐していないことが明らかであり、しかしながら、公務員の旅費のうち、鉄道賃及び宿泊料については、定額主義が採用されていて、一定の計算式により算定された標準的な費用が支給され、予定された目的地に赴き、予定された日数の宿泊がなされた限り、右の支給額が実際の出捐金額と比べて過不足があったとしても、精算を要しないものとされているのであるから、被告藤川において右の宿泊料及び交通費相当額を市に返還しないことをもって不当又は違法な利得ということもできない。
(二) 仙台市及び塩竈市への出張について
(1) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
ア 被告藤川は、市会議員としての長年の活動の中で、老人福祉問題、観光関係等に特に関心を持ち、平成四年当時には、高槻市の老人福祉計画懇話会の委員、同市観光協会の理事(事業部長)の地位にあった。
イ 同被告は、別紙出張一覧表二2記載の日程で、平成四年九月五日から七日までの間、仙台市と塩竈市に出張したが、その目的の第一は、同月五、六日に仙台市で開催された「高齢化社会をよくする女性の会」主催の「老いを拓くみちのくのシンポジウム」に参加し、高齢化社会の到来に向けて老人問題やこれに対する老人福祉の問題についての学習と情報収集をすることであり、第二には、塩竈市(松島)の観光行政の実態を把握することであった。
ウ 同被告は、自己が代表者を務める、高齢者問題の市民運動団体「北摂ふれあいデータバング」のメンバーとともに右のシンポジウムに出席した後、翌同月七日、右メンバーとともに松島を回り、パンフレットを入手するなどして帰阪した。
(2) 右に認定した被告藤川の従前の活動歴、右出張の目的、視察内容等に照らすと、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
原告らは、被告藤川の仙台市への出張(シンポジウムへの参加)は同被告が代表する前記団体の活動としてのものであり、また、塩竈市への出張も単なる観光旅行に過ぎないと主張するが、前記(1)アで認定した同被告の従前の議員としての活動歴及び当時の役職等に照らすと、右の出張が同被告の議員活動と関連性がないとはいえないから、右の主張は採用することができない。
3 被告尾崎について
(一) 〔証拠略〕によれば、以下のとおり認められる。
(1) 被告尾崎は、かねて高槻市緑化計画の推進に関心を有していたが、その進捗状態が悪いことから、高知県にあるフラワーロードの実情を見学することを思い立ち、別紙出張一覧表三記載の日程で高知市に出張することにした。なお、同被告は、自己が関係している労働組合の大会等の行事が多く、日程の調整ができなかったことから、申請が遅れ、事後申請の方法によることにした。
(2) 同被告は、平成四年七月一九日(日)正午過ぎ頃、陸路で高知駅に到着した。そして、昼食後、県庁、市役所周辺、中央公園、はりまや橋等を徒歩で回った後、タクシーで五台山に登り、高知市全域を跳め、当日は市内に宿泊した。
(3) 翌七月二〇日(月)午前九時頃、同被告は、市役所を訪ね、老人福祉課において老人憩所や保健婦センターの場所を聞くとともに、同市みどり課では市民参加の緑化事業といった内容の話を聞いた。その後、同被告は、タクシーで「桂浜花海道」まで往復し、途中タクシーから降りて道路に花が植えられている状況等を見聞した。そして、同被告は、その帰途、老人憩所や保健婦センターに立ち寄り、内部を見学した後、午後一時頃高知駅に着き、帰途についた。
(4) 同被告は、帰阪翌日の同月二一日、視察出張申請書(甲六の1)と出張報告書(甲六の4)を議長宛提出した。
その後、被告尾崎は、高槻市フラワーセンター建築構想について、委員会や市議会本会議で質疑を行った。
(二) 右に認定した事実経緯に照らすと、被告尾崎の高知市への出張は、行政視察としてはいささかずさんで不十分との非難は免れないものの、なお議員活動と関連のない私的な観光旅行と断ずることはできず、したがって、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱あるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
なお、事後申請が直ちに違法といえないことは、前記2(一)(2)で説示したとおりである。
4 被告須磨について
(一) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告須磨は、昼間人口の増加に伴う町おこしを図るための方策として観光事業が考えられるところから、小樽市の観光行政に関心を抱いていた。折から、平成四年六月頃、所属していた議会運営委員会による函館出張の日程が同年七月二八、二九日と決定したので、その帰途を利用して、会派視察として、同月二九、三〇日の日程で札幌と小樽市を視察する計画を立てた。
(2) 同被告は、同年七月二九日正午頃に議会運営委員会の視察が終了したので、函館市から札幌市に向かい、同日午後五時前に札幌市に到着した。札幌では、大通公園を歩き、ホテルで宿泊した。
(3) 翌七月三〇日午前、同被告は、小樽市に行き、小樽市博物館、小樽運河及びその付近での倉庫、倉庫を利用してガラスの製品の販売を行っている北一硝子三号館等を見学した後、天狗山にあるガラス工房に行き、ガラス製品を見たりした後、帰阪した。
なおこれらの視察に当たり、小樽市の担当部局に行って話を聞いたりしたことはなかった。
(二) 右に認定した事実経緯に照らすと、被告須磨の札幌市及び小樽市への出張も、行政視察としてはいささかずさんで不十分との非難は免れないものの、なお、議員活動と関連のない私的な観光旅行と断ずることはできず、したがって、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
5 被告久保隆夫について
(一) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告久保隆夫は、高齢化社会に対する対応策としての保健センターの設立や駅前開発における駐輪場設置や緑化政策に関し、先進する千葉県市原市及び船橋市に出張することとし、別紙出張一覧表五記載の日程を立てた。同被告が市原市を選んだ理由には、同市の市会議員である西岡喜代一が被告と同じ不二サッシの労働組合の出身者であるという事情があった。なお、同被告は、前年の平成三年九月にも市原市に出張しているが、そのときは、議会見学、商工業政策、地域福祉基金制度を視察事項とし、具体的には、西岡議員の案内で、コンビナート建設現場や魚釣り公園等を視察した。
(2) 同被告は、平成四年一〇月一五日午後二時三〇分頃、市原市の五井駅に到着し、出迎えの西岡議員の案内で、五井駅前付近に建設中の駐輪場を見学し、その問題点の指摘なども受けた。また、市内にある図書館や保健センター等の施設を見て回り、西岡議員の家に宿泊した。
(3) 翌一〇月一六日、同被告は、西岡議員の案内で、船橋市駅前や西口商店街を見学し、道路の整備状況についても見て回り、さらに同議員に連れられて、船橋競馬場や建設中の室内スキー場も視察した。その後、西岡議員の事務所に戻り、同議員の関係する不二サッシの労働組合幹部と懇談を行い、五井市内の健康ランドに宿泊した。
(4) 翌一〇月一七日、同被告は、東京の晴海で開催されていた不二サッシの組合大会に出席した後、大阪に帰った。
(二) 右に認定した同被告の出張の目的、態様等に照らすと、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
原告らは、右の出張は出身労働組合の大会に参加するためのものであったと主張するところ、同被告が一〇月一七日に出身労働組合の大会に出席したことは事実であるが、これが主張の主たる目的であったとは認められないし、また、右大会出席のために出張の日程が増えたともいえない(一六日の視察日程からすると、同日宿泊することはやむを得ないものといえる。)から、右の主張は採用できない。
なお、一五日の宿泊料が不当(違法)な利得とはいえないことは、前記2(一)(2)で判示したところである。
6 被告川上について
(一) 〔証拠略〕によれば、以下のとおり認められる。
(1) 被告川上は、高槻市原地区における高齢化問題について、国会議員井上一成に陳情するために、東京都に出張することとし、別紙出張一覧表六記載のとおりの日程を立てた。同被告は、事前に井上議員の秘書である佐藤と連絡を取ったところ、当日は井上議員ではなく秘書の佐藤が対応することを知った。
(2) 同被告は、平成四年一〇月一二日午後二時頃大阪を発ち、熱海で宿泊した後、翌一三日午前一〇時三〇分頃、都内で佐藤秘書に会い、その後午後三時半頃までの間、同人に陳情を行い、同日帰阪した。
(二) 右の事実によると、被告川上は、高槻市の原地区の問題に関して陳情のため東京に出張したのであるところ、確かに、陳情は本来の会派視察とは趣旨、目的を異にするともいえなくはないけれども、しかし、地方公共団体が国と全く関係のないところで存在しているわけではなく、多くの問題で国との調整等を必要としていることを考えると、陳情を行うことも議会(議員)の権能の範囲ということができるから、会派視察の名目で陳情を行ったとしても、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
なお、被告川上は、熱海で宿泊しているが、宿泊地は必ずしも出張の目的地に限定されるものではないから、右の一事をもって直ちに違法であるということはできない。
7 被告久保杏慈について
(一) 〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 被告久保杏慈は、大阪府及び高槻市の日中友好協会の会員であったところ、平成四年三月頃、高槻市と友好都市関係にある常州市の外事辨公室友好城市科副科長袁駿誠から招待状を受け、常州市を友好訪問して親善を深め、併せて中国の教育の実情を視察することを思い立った。なお、右の招待が夫婦同伴でというものであったので、同被告は、右の誘いに応じて妻を同伴し、同市の訪問、視察終了後は、私的な観光旅行として北京市等を見物することを計画した。
そのようなことから、同被告は、公務出張としての会派視察を利用することとし、別紙出張一覧表七記載のとおり、出張先を常州市、日程を同年五月八日(金)から一〇日(日)まで、出張者は自己一人として申請書を提出し、議長の承認を受けた。
(2) 同被告は、同年五月八日、妻トキを伴って大阪空港を発ち、正午過ぎに上海空港に到着した。同日午後、同被告らは、袁副科長の案内で上海市内を見学し、同市内で宿泊した。そして、同被告らは、翌五月九日午前の列車で常州市に向かい、昼過ぎに同市に着いた。常洲市では、洪副市長らの出迎えを受け、袁の通訳でインフレ問題や住宅問題等について懇談を行った。その後、同被告は、高槻市の五百住小学校と姉妹関係になっている東方小学校を訪問し、当日は常州市内に宿泊した。翌五月一〇日、同被告は、午前中に常州高級中学校を訪問して、校内施設等を見学した後、午後にはくし工場や大運河等を見学し、夕刻の列車で上海市に戻った。
その後、同被告は、私的な観光旅行として、私費で妻とともに北京市等を巡り、同月一三日夕刻帰国した。
(3) なお、同被告は、当法廷での〔証拠略〕の陳述書において、〔証拠略〕の撮影時期等について明らかに虚偽と認められる供述を行っているが(これについては〔証拠略〕の陳述書で虚偽供述であることを自認し、陳謝している。)、前掲の各書証に照らすと、右の事実があるからといって、同被告の供述ないしは供述記載の全部の信用性が疑われるということはできず、右(1)、(2)の認定を左右することはできない。
(二) 右の認定事実によれば、被告久保杏慈は、友好訪問と中国の教育の実情視察を目的として右の出張をしたものということができるところ、友好訪問自体が会派出張の趣旨になじむかどうかについては、いささか疑問がなくはないけれども、その公務性はなお肯認することができる上、中国の教育の実情視察という目的が会派出張の趣旨に沿うものであることは明らかであるから、議長において右出張を承認したことをもって、その裁量の範囲を著しく逸脱しあるいは裁量権を濫用したものと認めることはできない。
三 被告江村の公金支出の違法性について(争点3)
右のとおり、被告議員らの出張は、いずれも違法とはいえないのであるから、被告江村が被告議員らに費用弁償として公金を支出したことが違法となる余地はない。
(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 遠山廣直 山本正道)